2019年の貨物自動車運送事業法の改正により物流業界に変化の波が来ました。今回の法改正では持続的な物流業界の発展のため、ドライバーの労働環境の改善やコンプライアンスの遵守などが求められます。これにより物流業者は改革を迫られています。
本稿では「貨物自動車運送事業法の改正のポイント」と「変わる働き方」についてご紹介します。
2019年に法改正された時代背景
物流業界は市場規模は大きく成長を続けており、私達の生活に欠かすことができない役割を持っています。しかし低賃金・長時間労働によるドライバー不足や、生産性の向上などの問題を抱えています。これらの問題を解決するために2019年、貨物自動運送車事業法は改正されました。
国土交通省はこの法改正を通じ低賃金・長時間労働の解消や、多様な人材の雇用促進、適正な収益の収受を通じ、物流業界を持続的に発展させようと考えています。これにより重要な社会インフラである物流が滞ることを避けることが狙いです。
詳しく知りたい方は国土交通省物流政策課「物流を取り巻く現状について」をご覧ください。
改正、貨物自動車運送事業法の概要
貨物自動車運送事業法、改正のポイントは次の4つです。
- 規制の適正化
- 事業者が遵守すべき事項の明確化
- 荷主対策の深度化
- 標準的な運賃の告示制度の導入
詳しく知りたい方は国土交通省が発表した「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(平成30年法律第96号)について」をご覧くださいませ。
2019年の法改正で変わったポイント
貨物自動車運送事業法の改正で変わった点をご紹介します。
規制の適正化
約款の認可基準の明確化
運送の対価と、運送以外のサービス等を区別して対価を受け取る
事業許可の基準の明確化
安全性の確保
事業の継続遂行のための計画
事業の継続遂行のための経済的基礎 など
欠格期間の延長等
欠格期間の延長
処分逃れのための自主廃業を行った者の参入制限
密接関係者(親会社等)が許可の取引処分を受けた者の参入制限 など
事業者が遵守すべき事項の明確化
輸送の安全に係る義務の明確化
事業用自動車の定期的な点検・整備の実施 など
事業の的確な遂行のため守るべき義務の新設
車庫の整備・管理
健康保険法等により納付義務を負う保険料等の納付
荷主対策の深度化
物流業界の改革にはその相手方である荷主の協力が必要です。荷主には元請事業者も含まれ、彼らの理解と協力を得ながら働き方改革や法令遵守を行っていく考えです。
荷主との間で問題されている荷待ち時間について詳しく知りたい方は「物流業界の闇―荷待ち時間がもたらすドライバー不足と長時間労働」をご覧ください。
荷主の配慮義務の新設
トラック事業者が法令遵守できるよう荷主の配慮義務を設ける
荷主勧告制度(既存)の強化
制度の対象に貨物軽自動車運送事業者を追加
荷主勧告を行った場合、当該荷主の公表を行う旨を明記
国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定の新設
令和5年度末までといった時限付きの措置は以下の3つです。
トラック事業者の違反原因となるおそれのある行為を荷主がしている疑いがある場合
以下のいずれか
国土交通大臣が関係行政機関の長と、当該荷主の情報を共有
国土交通大臣が関係行政機関と協力して荷主の理解を得るための働きかけ
荷主への疑いに相当な理由がある場合
要請をしてもなお改善されない場合
この他に「荷主が独占禁止法違反の疑いがある場合は、公正取引委員会への通知を行う」ものがあります。これは時限的措置ではありません。
標準的な運賃の告示制度の導入
トラック事業者のほとんどは中小企業者であり、荷主との運賃交渉がしづらい実情があることからこの制度が導入されました。こちらも令和5年度末までの時限的な措置です。
標準的な運賃について詳しく知りたい方は「国土交通省公開の標準運賃の内容とこれからを徹底解説」をご覧ください。
貨物自動車運送事業法で変わる働き方
貨物自動車運送事業法の改正で労働環境の改善と生産性の向上、コンプライアンス遵守が注目されるようになりました。トラック事業者はこれらの達成だけでなく、これらの改善を通じて持続可能な成長を目指さなければなりません。ここでは今回の法改正で変わる働き方についてご紹介します。
経営力のより一層の強化
トラックドライバーは令和6年度より時間外労働の限度時間が設けられます。これまで以上に労働時間と得た成果に注意する必要があります。また規制の適正化や過労死などのコンプライアンスを遵守する必要があります。法改正された今、トラック業界に求められているのは経営力そのものだと言えます。
ドライバーの待遇改善と求人
トラック業界はドライバーの人材が欠かせません。しかし低賃金・長時間労働の問題を抱えていることから、経営力の強化を通じ収益性を向上させドライバーの待遇に反映する必要があります。また採用する人材の間口を広げ、女性や外国人などの多様な人材を雇用することが求められます。
労働生産性の向上
今回の法改正で労働時間やその業務内容を理解することができます。労働時間に対して、どれだけの利益を得られたかの労働生産性を向上させる方法を考える必要があります。これを向上させるには作業時間の短縮や、収益の増加の2点を改善する必要があります。
作業時間は人員や配送ルートなどの工夫や、AIなどの技術で改善することが期待できます。収益は顧客との運賃交渉やオンデマンド配送の「トラクルGO」などの利用で改善が期待できます。
適正な取引の推進
現在トラック業界は大きく「コストに見合った収益を得られていない」「荷待ち時間や附帯業務などのコストを管理できていない」の問題を抱えています。適正な取引推進では「標準的な運賃の告示」や「取引内容の書面化」を通じて改善することを目指しています。
これにより収益とコストの記録や、トラブル防止を図ろうと考えています。書面化の流れを詳しく知りたい方は「3分で分かる!トラック運送業の書面化推進と運送引受書」をご覧ください。
変化する物流業界で役立つフレームワーク
物流市場は今回の法改正だけでなく、Eコマースの台頭などのライフスタイルや、環境に配慮した配送業者などの新規事業参入者などにより変化を続けています。変化の波に流されるのではなく、乗りこなすためのフレームワークをご紹介します。
PDCAサイクル
PDCAサイクルは計画(Plan)実行(Do)評価(Check)改善(Action)の頭文字をとって生まれた言葉です。各プロセスについて詳しく見ていきましょう。
P:解決した問題を乗り越える目標を設定する
D:目標を達成するための方法を実行する
C:実行した結果が目標を達成したかを判断する
A:検証結果から得た改善策を実行する
これら4つのサイクルを目標達成まで終わることはありません。粘り強く目標達成のためにどうすべきかを考えることが重要です。
OODAループ
OODAループ(ウーダループ)は想定外の場面でも使えるため、最強の思考と呼ばれます。見る(Observe)分かる(Orient)決める(Decide)動く(Act)見直す・見越す(Loop)の頭文字からそう呼ばれます。PDCAサイクルは想定外なことが起きると、再度サイクルを見直す必要があります。OODAループの場合、そのプロセスに学習が入っており柔軟に対応することが可能です。
OODAループは自社でコントロールできない外的要因を予想・仮説立てをし行動します。その結果を基に再度分析をし実行するサイクルが特徴です。変化が多い場合や対応のスピードを求める場合に適しています。
両者それぞれの特徴からフレームワークを使い分け、変化する物流業界を生き抜くことが大切でしょう。
まとめ
ここまで貨物自動車運送事業法の改正についてご紹介してきました。今回の改正の根幹には「人材不足」があります。改正によって働き方と生産性が変わり、物流業界が持続的に発展していくことを願います。
ペンネーム:陣内智徳
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