「標準運賃」とは何か
物流業界は私達の生活を支える社会インフラです。その重要性は急速なIT化やEコマースの台頭などで日々、役割が大きくなっています。しかしながら物流業界は深刻な人手不足に悩まされています。ドライバーの不足で物流が滞ることのないよう、国土交通省は2019年11月1日より貨物自動車運送事業業法の改正を行っています。今回の法改正は物流業界が抱える次の4つの問題を改善し、トラックドライバーの労働条件の向上を目指しています。
- 規制の適正化
- 事業者が遵守すべき事項の明確化
- 荷主対策の深度化
- 標準的な運賃の告示制度の導入
今回は国土交通省が目指すこれら問題の解決のひとつ「標準的な運賃の告示制度の導入」についてご紹介します。この記事を読むことで「標準運賃とは」や「国土交通省が示す標準運賃表」、「標準運賃の導入で変わると期待されること」について分かります。
なぜ国土交通省は“標準運賃”を公開したのか
物流業界は今日において社会的に重要な役割を担っています。また物流業界は順調な成長を続けています。しかしながらドライバー不足の問題を抱えています。物流業界が人手不足になることによって物流が滞れば、社会的ダメージは大きいです。そのため国土交通省は人手不足の主な原因となっている「人手不足の問題」と「トラック事業者の交渉力の問題」を是正するため今回の法改正を行いました。これらの背景についてご紹介します。
人手不足の問題
ドライバーは他の産業と比較して「長時間労働」や「低賃金」の傾向にあり、ドライバー不足は深刻です。
厚生労働省が発表した平成30年賃金構造基本統計調査によるとトラックドライバーの労働時間は全産業と比較し370時間多く、賃金は同じく全産業と比較すると約80万円低いです。
この「長時間労働」と「低賃金」が人手不足の問題を発生させています。これに加え「市場の成長」や「高齢化」なども要因として挙げられます。
詳しく知りたい方は「物流業界の人手不足ートラックドライバーの現状と対策ー」をご覧ください。
トラック事業者の交渉力の問題
トラック運送業のおよそ90%は中小企業です。そのため荷主企業に対して「値上げ」や「契約条件の再交渉」などの交渉がしづらいのが実情です。この交渉力の問題は「低賃金」や「長時間労働」に繋がっています。
国土交通省が企む、物流業界を変革の4本柱
国土交通省は物流業界の持続的な発展を促すため、次の4つの柱を打ち出しています。
①規制の適正化、
②事業者が遵守すべき事項の明確化、
③荷主対策の深度化、
④標準的な運賃の告示制度の導入です。
これら4つの柱の目的についてご紹介します。
規制の適正化
- 法令に違反した者等の欠格期間の延長
- 許可の際の基準の明確化(適切な計画・能力を有する旨の明記)
- 荷待時間や追加的な附帯業務の見える化のため、約款の認可基準の明確化
事業者が遵守すべき事項の明確化
- 輸送の安全に係る義務の明確化(事業用車両の定期的な点検・整備の実施など)
- 事業の的確な遂行のための遵守義務の新設(車庫の整備や管理、健康保険料等の納付など)
荷主対策の深度化
- 荷主の配慮義務の新設
- 荷主勧告制度(既存)の強化(制度対象に貨物自動車運送事業者の追加など)
- 国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定の新設
トラック事業者の努力だけでは働き方改革や法令遵守を行うのは困難です。そのため今回の法改正で荷主企業も対象に入りました。
特に「荷待ち時間」は物流業界の問題のひとつです。この問題について詳しく知りたい方は次の「物流業界の闇―荷待ち時間がもたらすドライバー不足と長時間労働」をご覧ください。
標準的な運賃の告示制度の導入を内容とする貨物自動車運送事業法
- 標準的な運賃の告示制度の導入
標準運賃制度の概要
物流業界において「人手不足」は深刻な問題のひとつです。経済活動や日常生活に物流は欠かせないものだからです。
この物流業界における人手不足は「長時間労働」と「低賃金」が原因となってます。今回の国土交通省の標準時間制度はこの内、低賃金問題を全産業の平均値あたりまで是正する目的で導入されました。ただし告示された運賃に強制力はありません。運賃交渉の材料のひとつということです。
距離制運賃表
距離制運賃表については各所属の運輸局資料をご確認ください。
その他
その他では時間制運賃表や運賃割増率、待機時間料、附帯業務料などが含まれます。
標準運賃はどこまでの効果が見込めるのか
労働環境の改善に向けて物流業界の関心を大きく寄せる「標準単価」ですが、果たして当制度の導入でどれほどの効果が見込めるのでしょうか。
今回の制度は2023年度末に適用されるドライバーへの年間960時間の時間外労働規制までの時限的施策として導入されました。国土交通省によれば標準運賃は「適正な原価に基づき、適正な利益を上げる水準」の料金を公表することで、物流業界に潜む低賃金問題を全産業の平均並みにしたい考えです。ただし「荷主企業の関心」や「本件の標準運賃表と自社の実態との乖離」には注意したいところです。
なぜなら標準運賃自体に法的な拘束力はなく、あくまで参考資料としての位置付けだからです。また標準運賃と実態のズレも指摘されています。そのため従来と大きく変わらず賃金交渉(荷主への理解)や企業努力(業務改善など)を引き続き、行う必要があるでしょう。
まとめ
日を増すごとにその重要性が改めて認識される物流業界。社会を支える物流業界は「人手不足」と「交渉力の相対的低さ」の問題を抱えています。この人手不足は「低賃金」と「長時間労働」からなります。今回は国土交通省がこの低賃金を解消する目的で発表した「標準運賃」についてご紹介しました。
標準運賃は法的拘束力を持ちませんが、荷主企業の理解を求めていくことができます。また2023年度末にはドライバーの時間外労働規制が始まります。生産性の向上を計画する目的で自社事業との差に注目してみることもできます。
ペンネーム:陣内智徳
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