現代社会において物流は欠かすことのできない産業です。急速なIT化など社会に変化によって物流業界は成長を続けています。成長と裏腹に「ドライバー不足などの人手不足」や「長時間労働」が問題となっています。これらの裏側に潜む荷待ち時間についてご紹介します。この記事を読むことで「荷待ち時間とは」や「荷待ち時間がもたらす弊害」、「荷待ち時間への対策」などが分かります。

物流業界の荷待ち時間とは

荷待ち時間とは送り主や送付先、物流施設などの都合によりドライバーが待機せざるをえない時間のことです。また荷積みや荷卸しの時間もこれに含まれます。この待機時間はドライバーでコントロールすることが困難です。そのためドライバー以外の都合によって、長時間に渡って待機を要求される場合があります。運送企業の90%は中小企業のため荷待ち時間の改善や、待機時間による追加の金額請求は行いづらいというのが実情です。

荷待ち時間が発生するメカニズム

ドライバーにとって荷待ち時間はストレスです。荷待ち時間ゼロが理想ですが、なぜ荷待ち時間は発生するのでしょうか。ここでは荷待ち時間発生のメカニズムを「配送企業側」と「荷主企業」の2つを事例に紹介します。

配送企業の事例

ここでは配送企業(倉庫など)を事例に荷待ち時間が発生する原因の一例を紹介します。以下の理由は運転手で対策することができず待機する他ありません。

  • 場内環境が整っておらず荷積みが行えない
  • 他社車両と時間がバッティングし待機を要求される

荷主企業の事例

ここでは荷主企業(工場など)を事例に荷待ち時間が発生する原因の一例を紹介します。以下の理由は運転手で対策することができず待機する他ありません。

  • 荷卸し(荷積み)する準備ができていない
  • 急な梱包サイズの変更準備で待機を要求される

荷待ち時間が物流業界に及ぼす弊害

荷待ち時間が発生することで物流業界にどのような弊害があるのでしょうか。荷待ち時間はドライバー(輸送企業)の本来業務の負担となります。待機時間が多いと「ドライバーの長時間労働」や「待機時間中の路上駐車問題」などの弊害をうみます。また待機時間の問題によりドライバーの長時間労働が常態化することで、物流業界の魅力が相対的に下がり「人手不足問題」につながります。ここでは物流業界が直面している「ドライバーの長時間労働」と「人手不足問題」について説明します。

ドライバーの長時間労働

ドライバーの主な業務は集荷、荷積み、輸送、荷卸しの4つです。これらは自社で事業計画や輸送計画などを作成することができます。しかしながら上記業務に荷待ち時間が加わることで業務負担が増えます。荷待ち時間は自社(ドライバー)でコントロールすることができません。そのため配送企業や荷主企業などの都合によって時間的負担を強いられます。

ドライバーの人手不足

物流業界は順調に成長を続けています。IT化の進歩などでさらに成長することができます。令和元年5月に厚生労働省から発表された労働経済動向によると欠員率5.7%と全産業と比較して高い水準で人手不足となっています。トラックドライバーは「長時間労働」、「低賃金」の特徴を持っています。平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によると、全産業の労働時間が2,124時間なのに対し、トラックドライバーは2,500時間を超えます。また同統計資料の年間所得においては全産業平均が497万円なのに対し、トラックドライバーは410450万円ほどです。詳しく知りたい方は「物流業界の人手不足ートラックドライバーの現状と対策ー」をご覧ください。

荷待ち時間の記録が義務化となった背景

平成2971日から荷待ち時間の記録は義務化になりました。当義務化は乗務記録を作ることで荷待ち時間の把握やドライバーの負担軽減、適正な経済取引を目指しています。ドライバーは長時間の運転や危険 物の輸送などストレスがかかりやすい仕事です。また荷積みや荷卸しでは体力が求められる重労働でもあります。ここでは今回の義務化となった背景として事例をご紹介します。

事例1:ドライバーの20%が違法残業(20179月)

厚生労働省愛知 労働局は4日、複数の事業所での違法な長時間労働で是正指導したにもかかわらず、その後も改善しなかったとして、名古屋市の運送会社「大宝運輸」の社名を公表し再度、是正指導した。月80時間を超す違法な時間外・休日労働が同社のトラック運転手の約2割、計84人で確認された。うち74人は月100時間超で、最長197時間のケースもあった。

事例2150時間以上の時間外労働による過労死(20189月)

二つの企業に雇われていたトラックドライバーの男性が死亡したのは長時間労働が原因だったとして、川口労働基準監督署(埼玉県)が7月5日付で労災を認定した。遺族側の 弁護士が26日、記者会見で明らかにした。労災認定では副業など複数社の労働時間は原則として合計されないが、この男性の場合、実態は片方の会社だけに雇われていたという。

(中略)

川口労基署が認定した残業時間は亡くなる直前の1カ月間で約134時間だったといい、「過労死ライン」とされる月100時間を超えていた。川人博弁護士は会見で「実質は一つの雇用を二つに分けて労災責任を免れる危険性があった」と指摘した。

荷待ち時間の記録が義務化の概要

自社(ドライバー)ではどうすることもできない、荷主などの都合による30分以上の待機時間を乗務記録に記載することが貨物自動車運送事業輸送安全規則によって義務付けられました。乗務記録の概要についてご紹介します。

乗務等の記録(第8条関係)

乗務記録に記載する内 容は以下の通りです。なお乗務記録は車両重量8トン以上あるいは最大積載量5トン以上のトラックに乗車する場合に必要です。乗務記録はドライバーごとに作成し、1年間の記録保存をすることが定められています。

  • 指定場所や集荷地点などへの到着時間
  • 荷待ち時間(30分以上待機していた場合のみ記載)
  • 附帯業務の時間(荷造りや仕分けなど)
  • 荷積み、荷卸しの時間
  • 指定場所や集荷地点などからの出発時間

デジタルタコグラフ(デジタコ)などの方法で管理している場合、ドライバー本人でなく会社側で管理が可能なため、乗務記録の記載は必要ありません。

適正な取引の確保(第9条の4関係)

荷待ち時間の記録を積み重ねることで実態の把握ができます。ドライバー(運送会社)にとっては取引や業務の実態が理解できます。また過度な要求をしてくる荷主について対策や是正を求めることができます。

荷待ち時間の記録を積み重ねることでドライバーの長時間労働や業務の効率化、対等な取引関係などの労働環境の改善に役立つことが期待されています。

これは荷待ち時間?よくある質問回答紹介

乗務記録の義務化に伴い荷待ち時間の記録が行われています。記録にあたって「これは荷主都合?それとも事業者(ドライバー)都合?」と迷うことがあるかと思います。ここでは乗務記録の記載によくある質問を全日本トラック協会の資料をもとにご紹介します。

トラック待ちの時間は荷主都合?事業者都合?

Q8時荷卸しのため6時から待機しているが、これは事業者都合か?

A:事業者都合

荷主の指示 8時であった場合、ドライバー(事業者)の都合により指示 された時刻より 早く目的地に到着した場合は事業者都合となる。ポイント:「荷主の都合により~待機場合」のみ荷待ち時間となる。

荷待料金を収受済みで荷待ち時間の合計が30分を超える時は?

Q:荷待ち料金を事前に受け取っているが、待機時間の合計が30分を超えると乗務記録に記載するのか?

A:記載する

料金の収受に関係なく荷待ち時間が発生した場合は乗務記録に記載する。

ポイント:荷主都合による待機時間は必ず記録する。

伝票などの受け取りにかかる時間は?

Q:領収書や納品書などの伝票の受け取りにかかる時間も荷待ち時間に含めて良いか?

A:事業者の管理方法による

荷待ち時間を到着時間から出発時間までのうち業務と休憩を差し引いたものとしているため、事業者の管理により異なる。

ポイント:会社が伝票の受け取りを業務として管理しているか否かにより異なる。

荷待ち時間問題の解決に向けた取り組み事例

荷待ち時間の改善は物流業界にとって改善すべき問題です。そのため各物流業者はさまざまな取り組みを実施しています。ここでは厚生労働省が公表している「荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例」をもとにご紹介します。

荷主企業との勉強会

物流業界に様々な弊害をもたらす荷待ち時間ですが、荷主企業との勉強会の実施でこの問題を解決しようと試みる企業があります。

  • 荷主企業に改善基準告示のポイントを理解してもらう
  • 荷主企業と運送事業者の間で運送条件をしっかりと確認する
  • 荷主企業と運送事業者が共にお互いの業務内容を見直す

事前に運送条件やお互いに改善する基準を定めることで、Win-Winな関係が築けることが期待されます。

荷積みや荷卸しの作業方法の改善

荷待ち時間がある程度 発生することを受け入れ、自社内で業務改善できる作業を効率化しようとする取り組みがあります。

  • 積み込み作業の管理システム導入
  • 作業の導線と積込み作業の改善
  • 回収物の降ろし作業時間の短縮

作業効率を上げることでムダが省かれ時間やコストの捻出ができます。それらをもとに荷待ち時間とうまく付き合いながら事業を継続していくことを目指しています。

テクノロジーやデータの活用

テクノロジーやデータなどの最新技術を利用して、荷待ち時間問題の解決や業務の効率化を目指す取り組みがあります。

  • 入庫から出庫までの目標時間を明確にする
  • 受付管理システムの有効活用とバースの確保
  • 元請運送事業者と場内作業者の緊密な連携

テクノロジーやデータを活用することで場内作業がスムーズにすることが期待されます。

まとめ

人と人をつなぐ物流業界。その重要性は日を増すごとに高まっています。しかしながら物流業界は「長時間労働」と「人手不足」の問題に直面しています。これらの問題に裏に潜む「荷待ち時間」についてご紹介してきました。荷待ち時間を解決する足がかりとして乗務記録の義務化が始まりました。また各社、さまざまな方法で荷待ち時間問題を乗り越えようと取り組んでいます。労働環境の改善や生産性の向上を通して、物流業界がさらなる発展をすることを願います。

ペンネーム:陣内智徳